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2013/01/11

日本電気株式会社より

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ミドリムシを主原料とするバイオプラスチックを開発? 植物由来成分が約70%を占める ?

平成25年1月9日
独立行政法人 産業技術総合研究所
日本電気株式会社
国立大学法人 宮崎大学
独立行政法人 科学技術振興機構


ポイント

  • ミドリムシが作る高分子に、ミドリムシまたはカシューナッツ殻から得られる油脂成分を付加
  • 従来のバイオプラスチックや石油由来の樹脂に劣らない耐熱性と熱可塑性をもつ
  • 光合成によって二酸化炭素を効率よく有機化合物に変換できる藻類を利用



概 要


独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)バイオメディカル研究部門【研究部門長 近江谷 克裕】芝上 基成 主任研究員は、日本電気株式会社【代表取締役 執行役員社長 遠藤 信博】(以下「NEC」という)スマートエネルギー研究所 位地 正年 主席研究員、および国立大学法人 宮崎大学【学長 菅沼 龍夫】農学部 林 雅弘 准教授と共同で、微細藻の一種であるミドリムシから抽出される成分を主原料とした微細藻バイオプラスチックを開発した。
この微細藻バイオプラスチックはミドリムシ(ユーグレナ)(注1)が作り出す多糖類(パラミロン)(注2)に、同じくミドリムシ由来の油脂成分(ワックスエステル)(注3)から得られる長鎖脂肪酸またはカシューナッツ殻由来の油脂成分で柔軟性をもつ長い鎖状部位と剛直な六角形状部位を併せもつカルダノール(注4)を付加して合成され、熱可塑性(注5)と耐熱性(注6)に優れ、植物成分率が約70%と高いことが特徴である。本研究は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の先端的低炭素化技術開発の一環として行われた。

ミドリムシ/カシューナッツ殻から微細藻バイオプラスチックへの製造工程
ミドリムシ/カシューナッツ殻から微細藻バイオプラスチックへの製造工程

開発の社会的背景


地球温暖化に対する危機感が増す昨今、石油由来製品を代替する植物由来資源の活用に注目が集まっている。プラスチックは全世界で年間約2.3億トン(国内では約1300万トン)も生産されるが、ほとんどのプラスチックは石油由来のモノマー(注7)を高温・高圧条件下で反応させて作られるため、プラスチック生産過程で発生する温暖化ガスの量や製造に要するエネルギーは膨大なものとなる。また、石油由来製品を代替する植物由来資源は、将来予想される数千万トンレベルの需要に対して陸上植物の利活用だけでは供給が賄えないリスクがある。さらにその素材は食糧と競合しない非食用であることが望まれている。しかし藻類プラスチックの生産に限らず、微生物や生体触媒を利用した生産技術では、製造エネルギーに対し節約できるエネルギーの収支を上げていくことが大きな課題となっている。


研究の経緯


この研究開発は、独立行政法人 科学技術振興機構の委託事業「先端的低炭素化技術開発:ALCA(平成23?28年度)」の研究テーマ「非食用の多糖類を利用したバイオプラスチックの研究開発」(代表:NECスマートエネルギー研究所 位地 正年 主席研究員)の一環として行われてきた。この研究は、安定供給が可能なセルロースなどの非食用植物資源由来の多糖類を利用して、高い温暖化ガス削減効果を実現する革新的なバイオプラスチックの開発を目的としている。今回、多糖類原料として、陸上植物だけでの供給リスクを回避し、多糖類の分子構造の多様化によるバイオプラスチックの機能性向上を目指して、ミドリムシが産生する多糖類(パラミロン)を主骨格とする微細藻バイオプラスチックの開発に取り組んだ。一般に水中で光合成する微細藻類は、陸上植物よりも太陽エネルギー利用効率が高く、特にミドリムシは高濃度の二酸化炭素を直接利用でき、高い光利用効率の実現が可能である。このようなことからバイオプラスチック原料の供給源として選択した。さらにミドリムシは、食品工場などの安全な廃液を用いた培養が可能であるため、結果的にプラスチック製造にかかるエネルギーの削減につながりうると期待されている。


研究の内容

今回開発した微細藻バイオプラスチックは、ミドリムシがその細胞内に大量に産生する多糖類(パラミロン)に、ミドリムシの細胞内でパラミロンが分解されて生成するワックスエステルから合成される長鎖脂肪酸、あるいはカシューナッツ殻から抽出される油脂(カルダノール)から合成される変性カルダノールを付加させて合成した。図1に各化合物の構造式と製造工程を示す。
主原料である多糖類はβ-1,3-グルカンであり、グルコースが数多く連なってできた天然高分子である。また、樹木などを構成するセルロース(β-1,4-グルカン)も同じくグルコースが連結した高分子であるが、両者のグルコース間の結合様式が異なるため、セルロースはシート構造をとるのに対し、今回用いたβ-1,3-グルカンは一重または三重らせん構造をとり、立体構造に大きな違いがある(図2)。

図1?微細藻バイオプラスチックの製造工程
図1 微細藻バイオプラスチックの製造工程
図2?β-1,3-グルカン(パラミロン)とβ-1,4-グルカン(セルロース)の違い
図2 β-1,3-グルカン(パラミロン)とβ-1,4-グルカン(セルロース)の違い

作成した微細藻バイオプラスチックについて各種物性測定を行ったところ、衝撃強度などについては改善の余地があるものの、熱可塑性については、従来のバイオプラスチック(ポリ乳酸やナイロン11)や可塑剤を添加した酢酸セルロース、石油由来のABS樹脂と同等レベルであった。また耐熱性については、これらのプラスチックよりも優れていることがわかった(図3)。なおカルダノキシ酢酸とワックスエステル由来の長鎖脂肪酸それぞれを導入して調製したプラスチックには大きな物性の差は見られない。

図3 微細藻バイオプラスチックと他のプラスチックとの耐熱性の比較(ミリストイル基導入β-1,3-グルカンとカルダノキシ酢酸導入β-1,3-グルカンはいずれも微細藻バイオプラスチック)
図3 微細藻バイオプラスチックと他のプラスチックとの耐熱性の比較
(ミリストイル基導入β-1,3-グルカンとカルダノキシ酢酸導入β-1,3-グルカンはいずれも微細藻バイオプラスチック)

今後の予定


今後は微細藻バイオプラスチックの物性と構造の詳細な関係を明らかにし、さらに高い耐熱性や強度などの優れた実用特性を目指し、分子設計を推し進めていく予定である。またミドリムシの効率的な培養方法やパラミロンの抽出方法など、微細藻バイオプラスチック製造に不可欠な技術についても研究を行う。



用語の説明

(注1) ミドリムシ(ユーグレナ)
長さ約50 ?m、幅約10 ?mの微細藻の一種であり、分類学上、動物にも植物にも属するユニークな生物である。鞭毛により水中を泳ぎ回ることができる一方、葉緑体をもつため光合成することができる。そのため、通常の微生物のようにグルコースをエネルギー源とする増殖に加えて、太陽光と二酸化炭素をエネルギー源とする増殖も可能である。

(注2) パラミロン
ミドリムシがその細胞内に蓄積する多糖類で、グルコースが数百から数千個連なった高分子である。この高分子は細胞内では直径数?m程度の大きさの粒子状の形態をとり、エネルギー蓄積の役割を果たしている。なお「パラミロン」とはミドリムシが産生する多糖類の通称である。

(注3) ワックスエステル
ワックスエステルは炭素の数が十数個のアルコール分子と酸分子がつながってできた構造をもち、これを化学的に分解するとアルコールと酸となる。酸素を遮断した条件下にミドリムシを置くと、多糖類(パラミロン)を分解してこのワックスエステルを細胞内で合成する。

(注4) カルダノール
カシューナッツの殻から抽出される、15個の炭素が連なった鎖とベンゼン環をもつ油脂成分である。

(注5) 熱可塑性
熱を加えることにより溶融軟化する性質のことをいう。熱可塑性を有するプラスチックは加熱により溶融軟化した状態で成型し、これを冷却することにより一定の形状に加工することが可能である。

(注6) 耐熱性
ここでの耐熱性とは、プラスチックにおける耐熱性のことを指し、樹脂を加熱した際の変形のしにくさのことである。プラスチックの熱に対する変質の特性を調べる方法はいくつかあるが、ここでは、加熱による変形のしにくさをあらわすガラス転移温度(熱膨張性などの特性が大きく変化する温度)を測定した。この値が高いほど耐熱性が良好とされている。

(注7) モノマー
単量体(モノは1つの意)。構成単位となるもので、ポリマー(高分子:ポリはたくさんの意)の基本構造となる分子をいう。


17:01 | バイオマス